独身税とは|2026年に創設される子ども・子育て支援金制度との関係
海外では、実際に施行された実績がある「独身税」。近年、日本でも「独身税が導入されるのでは」とSNSやネット上で話題になっています。しかし、厳密には日本に「独身税」という名前の税は現時点では存在しません。混乱の背景には、2026年4月から始まる「子ども・子育て支援金制度」があります。この制度は、恩恵を受けられない独身者にも一定の負担を求める仕組みのため、一部で「独身税」と揶揄され、注目を集めているのです。本記事では、なぜ子ども・子育て支援金制度が独身税と呼ばれるのか、制度との関係や導入の背景をわかりやすく解説します。正しい知識を身につけ、制度の本質を理解できる内容になっていますので、ぜひ参考にしてみてください。
目次
・子ども・子育て支援金制度が独身税と呼ばれる3つの理由
・そもそも独身税とは
・2026年4月から開始される子ども・子育て支援金制度とは
・子ども・子育て支援金はいくら払う?
・子ども・子育て支援金制度が企業に与える影響と対応策
・まとめ
子ども・子育て支援金制度が独身税と呼ばれる3つの理由
子ども・子育て支援金制度が独身税と呼ばれる理由は、以下の3つの要因があります。
● 給与からの天引きされる
● 独身者への恩恵がない
● SNSやメディアでの議論から
子ども・子育て支援金制度は、少子化が日本の経済や社会に影響を及ぼすことから、全ての世代が協力して支援する必要があるという考えに基づいています。しかし、公的医療保険に上乗せして徴収されるため、恩恵が受けられない独身者や子どもがいない夫婦にとっては、費用負担のみが増加すると受け取られがちです。また、配偶者控除の原資も国民全体の税金で賄われているため、独身者には還元されにくい面があります。その結果、SNSやメディアでは「独身者への負担が重すぎる」「自分には関係ない支援に払うのは不公平だ」といった声が広がり、独身税として話題になっているのです。ただし、子ども・子育て支援金制度は「独身税」ではありません。誤解を避けるためにも、制度の本質を理解することが重要です。
そもそも独身税とは
そもそも独身税(Bachelor Tax)とは、未婚者に対して課される税金を指します。少子化対策として、結婚や出産を推奨し社会全体で支援する目的として導入されることが多い税制です。特に少子化が深刻な国で議論されてきました。実際、海外では独身税が施行された例があり、その結果や影響が日本でも注目されています。
独身税が導入された過去を持つブルガリアの事例
1968年から1989年までの間、ブルガリア政府は未婚者に対して収入の5〜10%を「独身税」として徴収しました。結婚・出生率の向上を目指した施策でしたが、期待された効果は得られませんでした。実際、ブルガリアの出生率は2.18から1.86に低下しています。独身税がかえって未婚者の負担を増やし、経済的な不安を招いたことで、結婚や出産への意欲が低下してしまったと考えられます。なお、結婚や出生率の向上を目的として他国でも導入された実績がありますが、実際に成功した例はほとんどありません。多くの場合、独身税が生活への負担を増やし、結婚や子育てがより難しくなるという逆効果が生じています。
2026年4月から開始される子ども・子育て支援金制度とは
少子化と人口減少が進む日本で、子育て世帯を支援するために「子ども・子育て支援金制度」が2026年4月から導入されます。子育て世帯を経済的に支援し、若い世代が結婚や子育てをしやすくすることを目的としています。ここでは、子ども・子育て支援金制度を以下の要点に絞って、詳しく解説していきます。
● 創設された理由
● 財源額
● 徴収方法
● 誰が払うか
それぞれを詳しく見ていきましょう。
創設された理由
子ども・子育て支援金制度が創設された背景には、少子化の進行や子育て世代の経済的負担の増加があります。日本では出生率が低下しており、将来的な労働力不足や社会保障制度の維持が困難となることが懸念されています。このため、政府は子育て家庭への支援を強化し、少子化に歯止めをかけることを急務としています。しかし、2023年に策定された「こども未来戦略」に基づき、以下の少子化対策を確実に実施するには、安定した財源が欠かせません。
✓ 児童手当の拡充
✓ 妊婦のための支援給付
✓ こども誰でも通園制度
✓ 出生後休業支援給付
✓ 育児時短就業給付
✓ 第1号被保険者の育児期間に係る保険料の免除措置 など
なお、政府は少子化の流れを食い止めるため、若年人口が急減する2030年までに、一連の対策を確実に実施していきたいと考えています。
財源額
政府が掲げる少子化対策には、国と地方を合わせて年間で3兆6000億円が必要です。この財源は、以下の内訳で賄われます。
✓ 既存予算の活用:1兆5000億円
✓ 歳出改革:1兆1000億円
✓ 支援金制度(新規):1兆円
支援金の徴収は2026年度から開始され、段階的に引き上げられる予定です。
✓ 2026年度:6000億円
✓ 2027年度:8000億円
✓ 2028年度以降:1兆円を安定的に徴収する計画
なお、政府は「こども未来戦略(加速化プラン)」の財源として、支援金制度を導入しながらも以下の2つの工夫で、国民に「実質的な負担は生じない」と説明しています。
✓ 歳出改革
✓ 賃上げ
これにより、収入が増えて保険料負担が軽減された範囲内で支援金を徴収するので、国民への負担は増えないとしています。ただし、賃金が上がるかどうかは企業や職種によって異なり、物価上昇を超えた賃上げでなければ、実質的な負担感が軽減されない可能性があります。また、2023年の段階では賃金上昇が物価上昇に追い付いておらず、負担感は人によって異なるでしょう。
誰が払うか
子ども・子育て支援金は、医療保険料と一緒に全世代、全経済主体が負担する仕組みです。つまり、高齢者や企業も含む全ての医療保険制度の加入者が、その負担を分かち合います。家庭に子どもがいるかどうかに関わらず徴収されるだけでなく、総報酬制で算定されるため、年収が高い世帯ほど支払う金額が増加し、時には支給される金額よりも負担が大きくなるケースも考えられます。
しかし、子ども・子育て支援金制度は、子どもを持つ家庭を支えるために国全体で取り組むものであり、所得の再分配を促す効果があります。近年、非正規雇用者の増加などを背景に若い世代の所得格差が拡大しており、世帯所得が500万円未満になると子どもを持つ割合が大幅に低下することが分かっています。支援金は、健康保険に加入している人から徴収され、妊婦や子どもがいる世帯に対して給付されます。所得の再分配が行われ、貧困状態にある子どもたちへの支援が行われ、少子化対策にもつながると期待されています。
子ども・子育て支援金はいくら払う?
こども家庭庁が発表した、健康保険加入者一人当たりの子ども・子育て支援金に関する負担額の試算は下表の通りです。
子ども・子育て支援金の負担額は、報道では「1人あたり月約500円」とされることが多いですが、実際には年度や人によって異なります。
例えば、給与所得者の場合、会社が独自の健康保険組合を持っているかどうかによって、負担額が変わります。自社に健保組合がない場合、全国健康保険協会(協会けんぽ)に加入し、その場合の見込額は令和8年度が250円、令和9年度が350円、令和10年度が450円です。一方で、大企業の健保組合では、総報酬額に基づいて負担金が決まるため、協会けんぽよりも負担額が高くなる傾向があります。また、単身者でも負担額は加入者ではなく被保険者1人あたりで計算され、共働きの家庭では、両方がそれぞれ医療保険の被保険者として支払うケースもあります。
子ども・子育て支援金制度の概要について(外部リンク)子ども・子育て支援金の計算方法
子ども・子育て支援金は、後期高齢者と現役世代の間にある「稼得能力」の違いに基づいて計算されます。このため、支払い能力に応じて負担を分かち合うという考え方が取り入れられています。例えば、自営業者は確定申告で所得を報告しますが、会社員や公務員は勤務先がその計算や納付を行うため、「税務署がどれだけ正確に所得を把握しているか」に違いが生まれます。これにより、加入者数に応じて公平に負担を分配することが予定されています。また、被用者保険は収入に基づいて負担が決まる「総報酬割」という方法が用いられ、各自の支払い能力に応じた負担が求められます。
子ども・子育て支援金制度が企業に与える影響と対応策
2026年4月から導入される「子ども・子育て支援金制度」は、企業にとって以下の影響を与えることが予想されます。
● 保険料負担の増加
● 人件費の圧迫
● 低所得層の労働意欲 など
具体的には、保険料は原則として労使折半で負担されるため、企業側も従業員の負担分を同額負担します。また保険料の増加は企業の人件費を圧迫し、賃上げの余地が狭まる可能性があります。企業はこの負担をどのように吸収するかが課題となるでしょう。制度に対応するため、中小企業は以下の対策を講じる必要があります。
● 労働環境の整備
● 「くるみん助成金」の活用
● 社内コミュニケーションの強化
● 財務計画の見直し など
子ども・子育て支援金制度に伴う保険料負担の増加を見越し、企業の財務計画を見直すことが重要です。必要な資金を確保し、今後の運営に支障が出ないよう準備を進めましょう。
なお、名古屋総合税理士法人では、企業が子ども・子育て支援金制度に適応できるよう税務面からサポートを提供します。持続可能な企業運営を実現したい方は、お気軽にご相談ください。
まとめ
2026年4月からスタートする子ども・子育て支援金制度は、少子化対策として大きな期待を集めています。そんな子ども・子育て支援金制度が「独身税」と呼ばれる理由は、独身者が支払う保険料が自分には直接的な恩恵をもたらさないことや、社会保険料として強制的に徴収される点です。また、企業にも影響を及ぼすため、制度を理解し、従業員への支援策を充実させることが求められます。今後の制度運用や効果に注目しましょう。