社保倒産とは|回避するために中小企業が取るべき3つの対策
近年、「社会保険料の滞納」が原因で倒産に追い込まれる、いわゆる「社保倒産」が増加しています。社会保険料や各種税金の納付は、企業にとって社会保障制度を支える重要な義務です。しかし、滞納が続くと、差し押さえや財産の売却といった直接的なリスクに加え、取引先や金融機関からの信頼を失い、資金調達が困難になる恐れがあります。特に、コロナ禍の支援策縮小や物価高の影響を受け、資金繰りが悪化している中小企業も増えています。状況を放置すれば、経営基盤が揺らぎ、事業継続自体が困難になってしまうでしょう。本記事では、社保倒産の概要や背景を整理した上で、中小企業が取るべき3つの対策をわかりやすく解説します。社会保険料を滞納した場合の流れや、名古屋で社保倒産寸前に相談できる団体も紹介しているので、ぜひ参考にしてください。
目次
・社保倒産とは
・社保倒産が増えている背景
・社会保険料の滞納から差し押さえに至るまでの流れ
・社会保険料を滞納する6つのリスク
・中小企業必見|社保倒産を防ぐ3つの対策
・社保倒産寸前に相談できる団体・専門家
・まとめ
社保倒産とは
社保倒産とは、社会保険料の滞納が原因で企業が倒産に追い込まれる事態を指します。社会保険料は、企業と従業員が折半で支払うものです。そのため、正社員数が多い企業ほど支払額が増え、滞納リスクも高くなります。万が一、社保倒産が起こると、従業員は失業の危機に直面し、取引先も経営危機の影響を受ける可能性があるでしょう。社保倒産を防ぐためには、社会保険料を期限通りに支払い、早期に資金計画を見直して経営基盤を強化することが重要です。
社保倒産予備軍は14万社にのぼる
令和5年度のデータによると、社会保険料を滞納している企業は14万2,119社に達し、全事業所の5.1%を占めています。これらの企業は「社保倒産予備軍」として、倒産の危機に直面しています。
また、2024年1月から10月までの間に、「税金滞納(社会保険料含む)」が原因となる倒産は155件に達し、前年同期比で121.4%増加しました。この数字は2018年の年間最多記録である105件をすでに上回り、急速に増加しています。
参考:
日本年金機構「令和5年度業務実績報告書」(外部リンク)社保倒産が多い業種
令和5年度における租税公課の滞納が原因で倒産が多かった業種は、以下の通りです。
1. サービス業(86件)
2. 運輸・通信業(64件)
3. 建設業(55件)
4. 製造業(48件)
5. 小売業(38件)
愛知県は製造業が盛んな地域であり、多くの中小企業が存在します。具体的な倒産件数や、影響を受けた業種のデータは公開されていませんが、全国的に見ても、愛知県内の企業も同じようなリスクに直面していると考えられます。
参考:
帝国データバンク「公租公課滞納倒産動向調査(2023 年度)」(外部リンク)社保倒産が増えている背景
社保倒産が増えている背景は、以下の4つです。
● コロナ禍の影響
● 経済環境の悪化
● 社会保険の適用範囲の拡大
● 中小企業特有の脆弱な財務基盤
それぞれを詳しく見ていきましょう。
コロナ禍の影響
新型コロナウイルス感染症がもたらした経済的な打撃が、社保倒産の増加に大きく影響しています。令和2年に始まった「ゼロゼロ融資」は、売上が激減した事業者を支援するため、実質無利子・無担保で融資を行う制度として導入され、全国で多くの企業が活用しました。この制度により、民間金融機関による保証承諾実績は約137万件、総額23兆円に達し、他の公的融資や給付金とともに、中小企業の資金繰りを大きく支えました。しかし、令和5年9月をもって新規受付が終了し、令和6年4月より返済が本格化しています。
一方で、コロナ禍からの完全な回復には至らず、特に中小企業においては売上が以前の水準に戻らないケースも見受けられます。例えば、宿泊業や飲食業といった対人サービス業では、需要が減少したまま、業績不振が続いている企業も少なくありません。こうした状況の中、ゼロゼロ融資の返済開始が資金繰りを圧迫し、社会保険料滞納が原因となる「社保倒産」が増加していると言えるでしょう。
経済環境の悪化
経済環境の悪化が企業に大きな負担を与え、経営を圧迫しています。具体的には、以下の要素が影響を与えています。
✓ 物価高騰
✓ 円安
✓ 原材料費の上昇
✓ 賃上げへの対応 など
日本銀行の金融システムリポートでは、インフレと人件費増加が企業に対する負担となり、コロナ禍からの立て直しが遅れている企業で倒産リスクが高まっていると指摘されています。特に、コスト増加を価格に転嫁できない中小企業では、利益が圧迫され、社会保険料や税金の支払いが滞るケースが増えています。
社会保険の適用範囲の拡大
令和6年10月から、従業員数51人以上の企業で働く短時間労働者にも社会保険が適用されるようになりました。適用拡大により、企業の社会保険料負担が一段と増え、リスクが高まっています。さらに、12月の社会保障審議会では、賃金要件の撤廃が了承され、今後の以下のスケジュールでさらなる拡大が予定されています。
✓ 令和8年10月:賃金要件撤廃
✓ 令和9年10月:企業規模要件撤廃
✓ 令和11年10月:個人事業所(5人以上の従業員)加入対象
これにより、新たに約200万人が厚生年金の加入対象となる見通しです。しかし、社会保険料の負担増は中小企業の資金繰りをさらに圧迫し、経営危機に陥る「社保倒産」のリスクが一層高まると懸念されています。
中小企業特有の脆弱な財務基盤
中小企業は、大企業と比較して財務基盤が脆弱で、急な経済変動に適応しづらい傾向にあります。自己資本や貯蓄が少なく、事業運営の資金の大半を借入で賄っているため、外的な影響で収益が減少すると、すぐに資金繰りが厳しくなります。特に、社会保険料の支払い滞納は、資金繰りに深刻な影響を与え、最終的には倒産リスクを高めます。このような事態を避けるためには、早期の資金調達計画と専門的なサポートが重要です。資金繰り支援を受けることで、経営の安定性を保ち、突然の危機に備えることが可能になります。
なお、名古屋総合税理士法人が作成する決算書は、金融機関の格付を最大化するために細心の注意をはらっております。融資実行率や融資限度額のアップ、プロパー融資の実現、金利の引き下げなど資金調達をよりスムーズかつ有利に進めたい方は、ぜひご相談ください。
社会保険料の滞納から差し押さえに至るまでの流れ
社会保険料の滞納から差し押さえに至るまでの流れは、以下の通りです。
1. 滞納の発生
2. 郵便・電話・訪問による督促
3. 納付督励
4. 財産調査の実施
5. 滞納処分(差押え・換価)
社会保険料の納期限(通常は翌月末日)を過ぎても支払いがされない場合、滞納が発生します。最終的に、滞納が解消されなければ、滞納処分が実行されます。差し押さえられるのは、預金、不動産、売掛金などです。差し押さえられた財産は、換価(売却)されて、未納分の社会保険料に充当されます。なお、日本年金機構と金融機関では立場が異なります。年金機構は、厚生年金や健康保険の保険料を確実に集める必要があり、公平性の維持が求められます。滞納が発生した時点で、適切に対応すれば、差し押さえや倒産のリスクを最小限に抑えられるでしょう。
社会保険料を滞納する6つのリスク
社会保険料の滞納は、企業経営に以下の深刻な影響を与えます。
● 資産差し押さえ
● 社会的信用の低下
● 金融機関からの融資拒否
● 取引先との取引停止
● 優秀な人材の流出
● 労働組合からの圧力 など
たとえ経営努力で財務状況が回復したとしても、失われた社会的信用を取り戻すことは非常に難しく、顧客離れが続く可能性もあります。リスクが積み重なることで、最終的には、企業の存続そのものが危ぶまれる事態に発展するでしょう。
中小企業必見|社保倒産を防ぐ3つの対策
社会保険料の未納問題は、放置すると企業経営に深刻な影響を与え、最悪の場合、社保倒産に繋がる恐れがあります。社保倒産を防ぐためには、以下の3つの対策が重要です。
● 専門家に相談する
● 納付緩和制度を活用する
● 資金繰りを改善する
それぞれを詳しく見ていきましょう。
専門家に相談する
社会保険料の未納問題が発覚した際は、できるだけ早く専門家に相談することが大切です。支払いが滞る原因は、急激な売上減少や予期しないコストの増加などさまざまです。専門家である税理士や社会保険労務士に相談することで、法律や制度を活用した最適な対応策を提案してもらえます。企業の現状に合った対応策を講じることで、社保倒産のリスクを大幅に軽減できるでしょう。ただし、対応が遅れるほど問題は深刻化し、解決が困難になる可能性があります。未納問題に気づいた時点で、早急に専門家に相談することをおすすめします。
納税緩和制度を活用する
納税緩和制度をうまく活用することで、急な資金不足を乗り越え、倒産のリスクを軽減できます。納税緩和制度とは、企業が経済的な理由で社会保険料や税金の支払いが難しくなった場合に、徴収を強制せず、猶予を与えることで再建のための余裕を持たせる仕組みです。利用が認められれば、1年(最長2年)社会保険料の支払いを猶予できる場合があります。たとえば、急激な売上減少や予期せぬ出費によって支払いが難しくなっても、猶予期間を利用すれば、短期的な資金繰りに余裕を持たせられるでしょう。また、この間に事業の立て直しや売上回復のための時間を確保できるでしょう。
資金繰りを改善する
資金繰りを改善することは、社保倒産の予防のみならず、企業の長期的な安定と成長に大きく寄与します。まず、以下のアプローチで安定したキャッシュフローを確保することが大切です。
✓ 不採算事業の見直し
✓ 新規顧客の開拓
✓ 既存顧客へのアップセル戦略
✓ コスト削減 など
なお、資金繰りや経営改善計画は一度作成したら終わりではありません。企業の状況や市場の動向に合わせて、定期的に見直しを行い、柔軟に対応することが求められます。
社保倒産寸前に相談できる団体・専門家
社保倒産のリスクが迫っていると感じた場合、以下の団体や専門家に相談することが有効です。
● 税理士・公認会計士
● 社会保険労務士
● 商工会議所
● 中小企業基盤整備機構 など
経営者は、日々の経営において重要な決断を下さなければならない場面が多くあります。その中でも、事業の方向性や資金繰りについての決断は特に難しく、悩ましいものです。もし社保倒産の危機を感じた場合、一人で悩まずに専門家の意見を求め、他の視点で問題を検討することが必要です。税理士や公認会計士は、経営改善や資金繰りの調整をサポートするだけでなく、財務面での課題解決に向けた具体的なアドバイスを提供します。一方、社会保険労務士は、社会保険料に関する法的アドバイスを提供し、滞納問題を適切に解決する方法を提案します。相談内容に応じて、適切な専門家や団体に相談することで、社保倒産のリスクを軽減し、適切な対策を講じられるでしょう。
なお、名古屋総合税理士法人は、地元名古屋に根付いた豊富な実績と、各分野の専門家とのネットワークを活かして、複雑な経営課題に多角的なアプローチで解決策を導き出します。経営改善に悩んでいる方は、お気軽にご相談ください。
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社会保険料や税金の未納問題は、一時的な問題にとどまらず、放置すると企業経営に深刻な影響を及ぼし、最悪の場合、社保倒産に繋がるリスクがあります。これは、業種や企業規模に関わらず、すべての中小企業に共通する重要な課題です。事業の存続を確保するためには、リスクが発生した時点で早急に対応し、資金繰りや経営改善を見直すことが重要です。特に、税理士や社会保険労務士といった専門家と連携し、適切なアドバイスを受けることが、問題解決の第一歩となります。早期に対応することで、リスクを最小限に抑え、事業基盤を強化し、企業の長期的な安定と成長を実現できるでしょう。