定額減税の給与計算方法とは|対象者やいつまで続くのか詳しく解説
令和6年6月から、定額減税が開始されます。定額減税とは、物価上昇に苦しむ国民の負担を軽減するために導入された期限付きの制度です。導入に伴い、企業側は従業員の給与に応じた減税処理を適切に行わなければなりません。そのため、「どのように減税の手続きを進めていけば良いのか」「増加する業務量にどう対応するか」といった悩みを抱える企業も少なくありません。本記事では、定額減税の概要や給与計算の流れ、中小企業における影響をわかりやすく解説します。実務上の注意点もあわせて紹介するので、ぜひ参考にしてください。
目次
・定額減税の概要
・定額減税の流れ
・4パターン別、中小企業における給与計算事務への影響
・定額減税における実務上の注意点
・まとめ
定額減税の概要
定額減税とは、「定額による所得税額の特別控除」の略称であり、所得税と個人住民税を減税する制度です。デフレを脱却するための一時的な措置として、毎月の給与から控除される所得税と住民税を調整することで、減税となります。この法案は令和6年3月に成立し、同年6月から実施されます。
減税額
減税額は、所得税3万円、個人住民税1万円の計4万円です。同一生計の配偶者や扶養親族がいると、その人数に応じて下表のように増額していきます。
例えば、納税者本人と配偶者、さらに2人の子どもがいる家庭の場合、次のようになります。
● 所得税控除:30,000円 × 4人 = 120,000円
● 住民税控除:10,000円 × 4人 = 40,000円
同一生計の家族が増えるごとに所得税と住民税がそれぞれ控除されます。
定額減税の流れ
定額減税手続きの流れは、以下の5ステップです。
1. 対象従業員を把握する
2. 扶養人数を確認する
3. 給与・賞与支給時に減税処理を行う
4. 給与明細に記載する
5. 年末調整時に減税額に基づいた精算を行う
なお、住民税に関しては、1万円減額された特別徴収税額通知書が会社に送られるため、計算は不要です。2024年6月の住民税は徴収されず、年間の住民税額は2024年7月から2025年5月までの11ヶ月で均等に分割して天引きされます。
1. 対象従業員を把握する
定額減税の対象となるための条件を満たしている従業員は、以下の通りです。
● 給与の源泉徴収で「甲欄」に該当すること
● 2024年6月1日時点でその会社に在籍していること
● 日本国内に居住していること
● 合計所得金額が1,805万円以下であること(給与収入のみの場合は2,000万円以下)
※子ども・特別障害者等を有する者等の所得金額調整控除の適用を受ける方は、2,015万円以下
基準日在職者に該当する求職者も控除対象です。そのため、復職後、実際に支払う給与から月次現在額の控除を適用する必要があります。なお、定額減税を管理するための「各人別控除事績簿」が、国税庁の定額減税特設サイトからダウンロード可能です。
国税庁:定額減税特設サイト(外部リンク)定額減税は6月の給与だけでは全額控除しきれないケースが多いため、翌月以降も引き続き控除を行う必要があります。そのため、前月までにどれだけ減税を行ったかを把握しておくことが重要です。事績簿の作成は任意ですが、作成しておくと減税額の管理が容易になるでしょう。
2. 扶養人数を確認する
扶養控除等申請書を提出している従業員は、扶養家族の人数に応じて税金が減額されます。ただし、扶養家族として認められるのは「同一生計の配偶者」か「扶養親族」です。
同一生計の配偶者
「同一生計の配偶者」として認められるためには、以下のすべての条件を満たしている必要があります。
● 同じ家計を営んでいること
● 所得が48万円以下であること
● 特定の事業従事者でないこと
なお、海外に住んでいる配偶者は、この減税の対象にはなりません。
扶養親族
「扶養親族」として認められるためには、以下の条件をすべて満たしている必要があります。
● 6親等内の血族または3親等内の姻族であること
● 同じ家計で生活していること
● その年の合計所得金額が48万円以下であること
● 青色事業専従者として給与を受け取っていないこと
● 白色事業専従者でもないこと
こちらも、海外に住んでいる扶養親族は減税の対象外となります。
なお、「扶養控除等申告書」に同居家族や扶養親族の情報が載っていない場合、従業員が定額減税の恩恵を受けるためには、事前に「源泉徴収に係る定額減税のための申告書」を提出してもらう必要があります。従業員が定額減税の対象になることが分かったら、「扶養控除等申告書」に記載のない人がいるかを通知し、申告を促してください。
3. 給与・賞与支給時に減税処理を行う
月次減税の手続きでは、令和6年6月1日以降に支払われる給与や賞与の源泉徴収税額から減税額を差し引きます。6月に賞与が支給される場合、給与よりも先に賞与から控除を開始します。企業ごとに賞与の支給時期は異なるため、自社の賞与支給スケジュールに合わせて適切なタイミングで控除を行いましょう。6月の給与や賞与の金額が少なく、定額減税額をすべて控除できない場合は、7月以降の給与から残りの控除額を引き続き控除します。最終的には、12月の年末調整で1年間の定額減税額の過不足を精算します。
4. 給与明細へ記載する
月次減税額を控除した際に従業員に交付する給与明細書には、「定額減税額(所得税)○○円」や「定額減税○○円」といった記載が必要です。ただし、源泉徴収票では定額減税額を把握することが可能であり、源泉徴収票には実際に控除した定額減税額の記載は必要ありません。
5. 年末調整時に減税額に基づいた精算を行う
年末調整は、毎年12月に実施されます。この時期に、給与支払者は年間を通じての適用対象者を改めて確認し、年末調整による減税額を計算します。なお、年末調整に関する具体的な手続きや必要な情報は、令和6年9月頃に国税庁から公表される予定です。公表される情報を基に、年末調整の準備と実施を適切に行いましょう。
4パターン別、中小企業における給与計算事務への影響
中小企業における給与計算事務の多くは、以下の3つです。
● 手作業で計算を行っているケース
● 会計ソフトを使用しているケース
● 経理代行サービスを使用しているケース
定額減税が始まり、どのように影響を与えるのかを詳しく見ていきましょう。
手作業で計算を行っているケース
給与計算を手作業で行っている場合、定額減税額を毎回手動で給与明細に追加する必要があります。少人数の従業員であれば、それほど手間がかからないかもしれません。しかし、従業員数が増えると、それぞれの定額減税の適用状況の把握が複雑となり、正確な給与明細を作成することが難しくなります。加えて、手作業での計算では、ミスが発生しやすくなります。そのため、給与計算におけるリスクを軽減し、効率化を図るためには、会計ソフトなどの導入を検討することが重要です。
会計ソフトを使用しているケース
会計ソフトは、経理や会計業務を支援する専用ソフトウェアです。自社が独自に設計した給与計算システムを使用している企業は、対応するための仕様変更を完了させ、既に稼働させているケースも少なくありません。給与計算における誤りは従業員の信頼を失う恐れがあるため、まだ表示変更に対応できていなければ早急な対応が求められます。一方、汎用ソフトウェアを使用して給与計算を行っている場合、多くの開発元が定額減税に対応しており、給与明細の表示や年末調整処理にも対応しています。そのため、給与明細の出力方法を確認する程度で定額減税に対応できるでしょう。
経理代行サービスを使用しているケース
経理代行サービスは、企業の経理業務を外部の専門家に委託するアウトソーシングサービスです。一般的に、経理代行サービスを提供する企業は以下の2つです。
● 税理士・会計事務所
● 経理代行会社
ただし、法人税や所得税などの税務に関する相談・申告代行などは税理士の「独占業務」です。無資格の経理代行会社では単純な記帳代行までしか依頼できないので注意しましょう。
なお、名古屋総合税理士法人ではご要望に合わせて、さまざまな会計ソフトに対応可能です。定額減税の対応も含めて、経理事務をカバーするだけでなく、節税など会社に有利な選択についてもコンサルティングを行います。経理業務の効率化を図りたい方は、ぜひ弊社の経理代行をご検討ください。
経理代行ページへ定額減税における実務上の注意点
定額減税における実務上の注意点は、以下の3つです。
● 二重取りに注意する
● 引ききれない場合の不足給付を説明する
● 税額なしでも納付書を提出する
それぞれを詳しく見ていきましょう。
二重取りに注意する
在職老齢年金を受給している従業員には、公的年金と給与の両方から収入があります。以下のようなケースを考えてみましょう。
Aさんは在職老齢年金を受給しながら、会社で働いており、毎月給与も受け取っています。年金の支払者は、Aさんに対して定額減税を適用しています。そのため、Aさんの勤務先で給与からも同じように定額減税を適用すると、結果的に二重の減税が適用されてしまうのです。
二重適用を避けるには、Aさんの給与から定額減税を控除したうえで、年末調整や確定申告で過不足を調整する必要があります。
引ききれない場合の不足給付を説明する
一人当たり所得税3万円、住民税1万円の定額減税ですが、税額が定額減税額に満たない場合は「調整給付(定額減税補足給付金)」を受け取ることが可能です。例えば、パートタイマーの年間所得税額が数千円程度の場合、令和6年の所得税の定額減税では、定額減税額を完全に引ききれないケースが考えられます。調整給付の実施は、所得税分も含め、住民税を課税する市町村が担当します。名古屋市では調整給付対象者へ、7月以降に申請書の送付が始まる予定です。なお、自治体によって申請方法が異なります。申請しないと給付金が受け取れない可能性があるため、対象者へのフォローを含め、対象者へのフォローアップも含めて、制度について事前に周知しておく必要があるでしょう。
税額なしでも納付書を提出する
月次減税の処理が終わったら、給与所得や退職所得などの源泉徴収税額を納付するための手続きが必要です。この手続きは、所得税徴収高計算書(通称:納付書)に必要な情報を記入し、法定期限内に税務署に提出するものです。月次減税によって納付すべき税額がゼロになったとしても、納付書の記入と提出が必要です。
まとめ
定額減税に関する事務手続きについては、国税庁が発表している「給与等の源泉徴収事務に係る令和6年分所得税の定額減税のしかた」で基本的な取り扱いを理解できます。しかし、一部の詳細はまだ不明確であり、今後の国税庁の発表次第では、手続きがさらに複雑化する可能性があります。ただし、ポイントさえ押さえれば特に難しいことはありません。
国税庁:給与等の源泉徴収事務に係る令和6年分所得税の定額減税のしかた(外部リンク)なお、名古屋総合税理士法人では、経験豊富な税理士、司法書士などの専門家が多数在籍し、事業主様の税務・財務に関するサポートに加え、経理業務全般の支援も行っています。定額減税の実務対応における不安を解消し、スムーズな業務運営を目指す方は、ぜひお気軽にご相談ください。