中小企業こそ活用すべき旅費規程の節税|作成ポイント、注意点を解説
「出張費が増える一方で、節税対策がうまくいかない」とお悩みの経営者や経理担当者の方も多いのではないでしょうか。特に出張が多い中小企業では、旅費が経営に与える影響は大きくなりがちです。そこで活用したいのが「旅費規程」です。しっかりと規程を整備することで、出張費が経費として認められ、節税効果を期待できます。本記事では、出張旅費規程を作成することで得られる節税メリットや、具体的な作成方法、注意すべきポイントをわかりやすく解説します。
目次
・旅費規程とは
・旅費規程で節税できる3つの理由
・旅費規程を作成するメリット・デメリット
・旅費規程の作成方法
・出張に必要な手続きを定める
・旅費規程を作成する際の注意点
・まとめ
旅費規程とは
旅費規程とは、従業員や役員が出張に行った際にかかる費用を、どのように支払うかを決めた社内ルールです。例えば、出張に行くと、電車や飛行機のチケット、ホテルの宿泊費、食事代などさまざまな費用が発生しますが、これらは業務に関連するため、企業が負担するのが一般的です。ただし、明確なルールがないと「どこまでが企業負担なのか」が曖昧になり、トラブルの原因にもなります。旅費規程を作成することで、以下のルールを明確にできます。
● 支払い基準
● 支給範囲
● 清算手順 など
規程があることで、従業員はどの費用が支給対象となるかを理解でき、経費の無駄使いやトラブルを防げます。また、企業側も経費を効率的に管理できるため、双方にメリットがあります。なお、多くの企業では、出張にかかる費用を実費で精算する方法ではなく、一定のルールに基づいた固定額で支給する仕組みを採用しています。これにより、精算の手間が軽減され、経費管理の効率化が図れるでしょう。
旅費規程で節税できる3つの理由
旅費規程で節税できる理由は、以下の3つです。
● 損金計上できる
● 非課税で出張手当を支給できる
● 社会保険料の負担を軽減できる
それぞれを詳しく見ていきましょう。
経費として全額計上できる
旅費規程を作成すると、出張にかかる以下の費用を経費として計上できます。
✓ 交通費:新幹線や飛行機の運賃
✓ 宿泊費:ホテル代
✓ 日当:出張中の食事や雑費をカバーするための手当
✓ 雑経費:その他の細かい費用 など
ただし、旅費規程がないまま出張手当を支給すると、給与扱いとなり、課税対象になってしまいます。適切に旅費規程を整備することで、出張費用を効率的に経費化し、税負担を軽減できるでしょう。
非課税で出張手当を支給できる
企業が従業員や役員に支給する以下の手当は、基本的に「課税支給額」として所得税の対象となります。
✓ 基本給
✓ 任意手当
✓ 法定手当
✓ 役員報酬
しかし、任意手当の一部である「出張手当」に関しては、税務上の要件を満たす場合に限り、非課税として取り扱うことが可能です。なお、出張手当とは、出張中に発生する宿泊費や交通費などを実費精算する代わりに、出張者が追加で必要とする生活費を企業が補助するための手当です。企業が支給することで、従業員や役員は出張中の生活費を軽減しながら、税負担を抑えられるでしょう。
社会保険料の負担を軽減できる
出張手当は、給料とは異なり社会保険の対象になりません。例えば、給与が30万円の場合、その金額に応じて社会保険料がかかります。しかし、旅費規程を作ると、出張中に1万円の日当を支給しても、社会保険料は発生しません。つまり、出張手当をもらうことで、実質的な支給額は増えるものの、社会保険料の負担は変わらないのです。個人と企業の両方が社会保険料を抑えられるでしょう。
旅費規程を作成するメリット・デメリット
旅費規程を作成することには多くのメリットがありますが、同時にデメリットも存在します。それぞれのポイントを詳しく見ていきましょう。
メリット
旅費規程を整備することで、企業には以下の5つの大きなメリットがあります。
1. 法人税や消費税の負担軽減
2. 経費精算の手間を削減
3. 支給額の公平性を確保
4. 非課税支給が可能
5. 出張手配の簡略化
例えば、旅費規程を設けることで、交通費や宿泊費の上限、利用できる交通手段が明確に定められます。そのため、出張者は手配に迷うことなく、スムーズに出張を進められます。その結果、企業全体の運営が効率化され、節税対策や業務の進行が円滑になる効果が期待できるでしょう。
デメリット
出張旅費規程は多くのメリットをもたらしますが、注意すべき以下のデメリットも存在します。
✓ 作成の手間と時間
✓ 支出の増加
出張旅費規程を作成する際には、出張エリアごとの金額設定や宿泊費、交通費の上限を詳細に決める必要があります。そのため、初めて作成する際はかなりの労力と時間がかかります。また、規程を導入すると、全社員に対して日当や宿泊費を支給しなければなりません。支給額が実際の出費を上回ると、無駄な出費につながるため、適切な金額設定が求められます。ただし、一度作成してしまえば、あとは状況に応じて微調整を加えるだけで済みます。運用段階では手間が減るため、最初の作成時にかかる労力を理解しておくと良いでしょう。
旅費規程の作成方法
旅費規程を作成する方法は、以下の8ステップです。
1. 目的を定める
2. 適用範囲を定める
3. 出張の定義を明確にする
4. 出張中の勤務時間の取り扱いを定める
5. 旅費の項目と支給額を定める
6. 出張に必要な手続きを定める
7. 精算方法を定める
8. 株主総会決議を実施し、労基署へ提出する
ここでは1.~5.について、順に解説します。
目的を定める
旅費規程を作成する際には、まず「目的」を明確に定めることが重要です。例えば、従業員が出張中に発生する交通費や宿泊費、日当などがどのように扱われるのかをしっかりと定めないと、従業員と企業の間で誤解が生じる可能性があります。そのため、旅費規程では「役員や従業員が業務のために出張する際、日当や交通費などの費用をどのように扱うかを決めた規定である」という目的をしっかりと示すことが必要です。規定の目的を理解してもらうことで、従業員や管理者もそのルールに基づいて正確な手続きを行えるようになるでしょう。
適用範囲を定める
次は、誰が規程の対象になるのかを明確にします。通常は全社員が対象となりますが、業種によってはアルバイトや契約社員が出張する可能性もあるでしょう。正社員だけでなく、他の雇用形態の従業員も含めるかどうかを検討しましょう。また、出張にかかる費用だけでなく、転勤に伴う引っ越し費用などもカバーできるように設定することが可能です。適用範囲を明確にすることで、全従業員が安心して出張や転勤を行える環境を整えられるでしょう。
出張の定義を明確にする
出張の定義を明確にすることで、従業員がどのような状況で出張とみなされるのかを理解しやすくなります。また、企業側も明確な基準に基づいて旅費を適切に支給できます。なお、多くの企業が出張の判断基準として、移動距離や宿泊の有無を考慮しています。例えば、「勤務先から100km以上離れた場所に出向く場合」といった具体的な基準を設けることで、どの移動が出張と見なされるのかが明確になります。距離や宿泊などの基準を設定することで、従業員と企業の双方がルールに基づいて行動できる環境が整うでしょう。
出張中の勤務時間の取り扱いを定める
出張時は、タイムカードなどによる勤怠管理が難しいケースも少なくありません。そのため、出張旅費規程で出張中の勤務時間の取り扱いを事前に決めておくことが重要です。例えば、「出張期間中の勤務時間は、就業規則第○条に基づき、所定の労働時間を勤務したものと見なす。」と明記することで、社員は出張中も自分の勤務時間がどのように扱われるのかを理解できるでしょう。
旅費の項目と支給額を定める
出張の定義や適用範囲を決めた後は、旅費の具体的な費用項目を設定します。出張にかかる費用は、以下の3つの項目に分けられます。
✓ 交通費
✓ 宿泊費
✓ 出張手当(いわゆる日当)
それぞれを詳しく見ていきましょう。
交通費
交通費は、出張時に発生する移動にかかる費用を指します。一般的には、実際にかかった費用を精算する「実費精算」の方法で支給されます。以下のような具体的なガイドラインを設定することで、社員がどのように交通費を請求できるかが明確になります。
鉄道利用:利用する列車の種類や席のグレードについての規定を設けます。例えば、役職に応じて利用できる車両を区分することが可能です。
飛行機利用:飛行機の利用に関しては、距離によって規定することが一般的です。例えば、「出張が500kmを超える場合に航空機を利用できる。ただし、緊急時には所属長の承認を得ればこの限りではない。」などを規定すると良いでしょう。
タクシー利用:タクシーなどの交通手段は、「公共交通機関が利用できない場合や、所属長の承認を得た場合に限り」など、利用条件を厳しく設定するケースが多い傾向にあります。
宿泊費
宿泊費は、出張中に泊まるホテルや旅館にかかる費用を指します。支払方法としては、実際にかかった金額を精算する方法(実費精算)や、あらかじめ決めた金額を支給する方法(定額支給)があります。なお、支給する金額に上限を設定するのが一般的です。また、以下のように役職に応じて金額を変えることも可能です。
♦ 一般社員:7,000円
♦ 役員:10,000円
♦ 社長:15,000円 など
なお、実際の宿泊費が旅費規程で定めた金額よりも少ない場合でも、従業員には事前に決めた定額が支給されます。このため、実費よりも多い金額が支給されたとしても、定額を経費として精算することが可能です。
出張手当
出張手当は、出張にかかる生活費を補助するために支給されます。通常、1日ごとに一定の金額が支給され、以下のように出張距離に応じて、異なる金額を設定しています。
♦ 近出張
♦ 遠出張
例えば、近場への出張の場合は1日3,000円、遠方は1日5,000円というように、距離によって金額を設定します。また、国内と海外では、それぞれの実情に応じて支給額を変えるケースもよくあります。なお、出張手当については、具体的にどの費用が含まれるかについて法的な基準は存在しませんが、一般的には出張中の食事代や通信費、備品購入費用が含まれます。ただし、交通費や宿泊費は別の項目として扱われます。また、取引先との接待を目的とした外食費用は出張手当には含まれず、交際費や会議費として処理されるケースが一般的です。
出張に必要な手続きを定める
出張をスムーズに進めるためには、必要な手続きや書類のルールをしっかりと定めておくことが大切です。具体的には、以下の内容を規定すると良いでしょう。
● 出張申請書や旅費精算書の形式
● 記入方法
● 提出期限
● 提出手段
● 残業や休日出勤の取り扱い
● 事故や病気の対応 など
出張に関連する書類は、税務調査が行われた際に求められる可能性があります。ルールを整備しておくことでスムーズに対応できるでしょう。また、出張中に事故や病気、自然災害が発生した場合の対応策もあらかじめ定めておくことで、従業員は安心して出張でき、経理や上司もスムーズに対処できるでしょう。
精算方法を定める
出張に関わるトラブルを避けるためにも、従業員がどのように申請や精算を行うかを明確に決めておくことが重要です。例えば、「出張者は帰社後3日以内に出張精算書を提出し、領収書を添付しなければならない」といった具体的な期限を設けると良いでしょう。なお、旅費規程は、導入後から効力を持つため、出張手当をさかのぼっての支給できません。仮に、過去の出張手当を支給しようとすると、利益調整と見なされ、税務上の問題が発生する可能性があるため、注意が必要です。
株主総会決議を実施し、労基署へ提出する
出張旅費規程を作成しただけでは、正式な規定として認められません。株主総会や取締役会など、出資者が集まる場で承認を得ることで、株主に認められた正式な規定として成立します。また、規程は全社員を対象とするため、労働基準法第89条第10号に基づき、就業規則の一部として位置づけられます。そのため、規程を作成したら、必ず労働基準監督署に届け出る必要があります。さらに、規程を新たに作成・変更する際には、従業員の過半数代表者の意見を聞き、その証拠を添付して届け出ることが求められます。手続きを経て、従業員へ周知することで初めて旅費規程は有効となります。
旅費規程を作成する際の注意点
旅費規程を作成する際は、以下の点に注意が必要です。
● 全社員を対象とする
● 適正な金額を設定する
● トラブル時の規定も定める
● 出張報告書の作成を徹底する
● 書類を保管する など
出張手当が他社と比較して極端に高かったり低かったりしないか、また役職によって支給額に大きな差がないかを確認しましょう。なぜなら、出張旅費は原則として、給与には含まれず、非課税扱いとなるからです。そのため、税務調査では、支給の適切さがチェックされやすい項目です。支給が認められないと、企業の経費として計上できず、従業員の受け取った金額が課税所得として扱われます。企業・従業員の両方が不利な状況になるため、適切に規定を作成すること重要です。
まとめ
出張旅費規程を整備することで、企業は法人税や社会保険料、消費税の負担を軽減できます。また、出張にかかる費用は非課税対象となるため、出張者も税負担を気にせずに済むのが大きなメリットです。規程を作成する手間はありますが、企業と従業員の双方にとって利益をもたらすでしょう。ただし、実費精算に比べてキャッシュアウトが増えるリスクも存在します。そのため、自社の状況に合った規定をしっかり設計することが重要です。なお、名古屋総合税理士法人では、合理的な税務判断に基づいて、貴社に最適な税対策を提案します。税務に関する不安や疑問を抱えている方は、お気軽に名古屋総合税理士法人へご相談ください。