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フリーランス法とは?中小企業が受ける影響と取るべき7つの対応を解説

近年、多くの企業が特定のスキルを持つフリーランスに業務を委託する機会が増えています。しかし、フリーランスは労働基準法の適用外であり、法的保護が不十分な点も問題視されています。こうした背景を受けて、2024年、新たに「フリーランス法」が施行されました。フリーランスに業務を委託する企業は、ルールを迅速に把握し、実務に活かすことが求められます。本記事では、フリーランス法の概要から、中小企業が受ける影響や取るべき7つの対応について分かりやすく解説します。フリーランスガイドラインに基づいた下請法との違いや各法令への適用範囲もあわせて紹介するので、ぜひ参考にしてください。

目次

フリーランス法とは
フリーランスガイドライン|下請法・独占禁止法・労働関連法との関連性
フリーランス法施行により中小企業が受ける影響
フリーランス法施行にともない企業が取るべき7つの対応
フリーランス法を違反した場合の罰則
まとめ

フリーランス法とは

フリーランス法は、フリーランスとして働く人がより良い環境で活動できるよう、取引の公正性や契約内容の透明性を確保することを目的とした法律です。令和4年2月に「定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律案(フリーランス・事業者間取引適正化等法案)」として閣議決定され、その後、同年4月28日に国会で成立しました。フリーランス保護新法やフリーランス新法とも呼ばれますが、この記事では「フリーランス法」の呼称に統一して解説します。

令和5年11月1日より施行開始

令和5年11月1日から、フリーランス法の施行が始まりました。フリーランスの働き方を保護する目的で制定されましたが、その道のりは簡単ではありませんでした。実際、2022年秋の臨時国会でも類似の法案が提出される予定でしたが、当時は成立に至りませんでした。その理由として、フリーランスという働き方の多様性から、まとめて保護することへの課題が指摘されたことが挙げられます。そこで、「フリーランス」の定義を明確化するために「特定受託事業者」という新たな枠組みを設け、保護対象を具体化しました。この調整を経て、法案は令和4年に可決され、令和5年11月からの施行が決定しました。

フリーランス法が施行された背景

近年、働き方の多様化が進む中で、フリーランスという働き方が急速に広がっています。実際、令和4年10月の調査によると、フリーランスとして活動している人は約257万人にのぼります。フリーランスは、働く時間や場所を自由に選べるなど柔軟性が高く、自分のペースで仕事ができるのが魅力です。企業にとっても、必要なスキルを持った人材をタイミングに応じて活用できるメリットがあります。一方で、フリーランスは法律上「労働者」ではないため、として扱われないため、労働基準法の保護を受けられないという課題があります。そのため、以下のようなトラブルが令和4年の調査で明らかになりました。

ハラスメントを受けた経験がある:約10%
最初に提示された内容と取引条件が異なる:約20%
報酬が期日に支払われなかった:約37%

特に、企業との力関係で弱い立場に置かれやすいフリーランスは、不利な条件を受け入れざるを得ないケースが目立っていました。こうした課題を解決し、フリーランスが安心して働ける環境を整えるために作られたのが「フリーランス法」です。フリーランスと企業の取引が公平なものとなり、働きやすさの向上が期待されています。

参考:

基幹統計として初めて把握したフリーランスの働き方~令和4年就業構造基本調査の結果から~(外部リンク)

内閣官房新しい資本主義実現会議事務局・公正取引委員会・厚生労働省・中小企業庁令和4年度フリーランス実態調査結果(外部リンク)

フリーランスガイドライン|下請法・独占禁止法・労働関連法との関連性

フリーランスガイドラインとは、フリーランスとの取引における法令適用の明確化を目的とした指針です。独占禁止法や下請法、労働基準法などがどのように適用されるかを整理し、不公正な取引や不適切な契約条件を防ぐことを目指しています。

各法令の違いは、下表の通りです。

下請法は、取引関係で立場が弱くなりがちな下請事業者を保護するために制定された法律です。例えば、資本金1,000万円を超える親事業者が、以下のような行為を行った場合、下請法違反となります。

納期を過ぎてからの一方的な返品
下請事業者に対する値引きの強要 など

フリーランスも対象に含まれますが、業務を委託する企業が資本金1,000万円以上の場合に限られます。一方、独占禁止法は、事業者間の公正な競争を守るための法律であり、フリーランスとの取引にも幅広く適用されます。労働基準法や労働契約法は、本来は雇用契約のある労働者を対象としています。しかし、フリーランスであっても、業務内容や働き方によっては「労働者」と認定されることがあります。例えば、フリーランスのエンジニアが企業のオフィスで決まった時間に勤務し、他の仕事を受けることを制限されている場合、実質的には労働者と見なされる可能性があります。企業はこれらの違いを理解し、取引トラブルを未然に防ぐことが求められます。

法令適用の優先順位

フリーランスへの委託において適用される法律は、取引内容や雇用関係によって異なります。法令適用の優先順位は、以下の通りです。

労働関連法令
 ↑ 雇用関係が認められる場合
フリーランス法
 ↑ フリーランスが対象となる場合
下請法
 ↑ 条件を満たす事業者間取引の場合
独占禁止法

フリーランスとの取引は複雑で、多くの要因が法令適用に影響します。例えば、実質的に雇用関係が認められる場合は、フリーランスであっても労働関連法令が適用される可能性があります。事業者側は、自社がどの法令の対象となるかを正しく理解し、適切な取引対応を行う必要があります。

参考:

フリーランスとして安心して働ける環境を 整備するためのガイドライン(外部リンク)

フリーランス法施行により中小企業が受ける影響

中小企業にとって、フリーランス法の施行は大きな影響を及ぼします。特に、これまで下請法などの規制対象外だった企業は、新たな法的義務に対応するために、社内制度を一から整備しなければなりません。一方、大企業では、既存の下請法対応やハラスメント防止策をフリーランスに適用するだけで済むケースが多く、比較的スムーズな移行が可能です。中小企業はゼロから取り組む必要があるため、より大きな影響を受けると言えるでしょう。準備を怠ると、トラブルが発生する可能性があるため、早めの対応が重要です。

フリーランス法施行にともない企業が取るべき7つの対応

フリーランス法の施行により、企業は以下の対応を求められます。

1. 正確な募集情報を掲載する
2. 契約条件を書面化する
3. 社内ルールを整備・周知する
4. 発注書や契約書をリーガルチェックする
5. 60日以内に報酬を支払う
6. 働きやすい環境を整備する
7. 契約解除を予告する

フリーランスとの取引環境を適切に整備し、法令を遵守した対応を行いましょう。

正確な募集情報を掲載する

企業はフリーランスを募集する際に、正確で誤解を招かない情報を提供することが大切です。例えば、報酬額を実際よりも高く掲載したり、すでに締め切られた募集情報をそのまま載せたりすることは、応募者に誤解を与え、契約後にトラブルを引き起こす原因となります。同時に、誤った情報をもとに契約が進んでしまうと、フリーランスの期待を裏切り、企業の信頼を損ねることにもなりかねません。報酬額や業務内容は正確に記載し、フリーランスが安心して応募できるようにしましょう。正しい情報提供を心がけることで、双方が納得できる取引を実現し、安心して契約に進めます。

契約条件を書面化する

フリーランス法の施行により、企業は契約内容を必ず書面化することが義務付けられました。これまで口頭で「前回と同じように」などと行っていた発注は、すべて以下の内容を明記した文書または電子データでフリーランスに提供する必要があります。

業務内容
報酬額
支払期日
発注事業者・フリーランスの名称
業務委託日
給付受領・役務提供の日
給付受領・役務提供の場所
支払方法(現金以外の場合)
検査完了日(検査を行う場合)

仮に、業務内容や報酬額が確定していない場合は、その理由と確定予定時期を文書に記載し、決まり次第速やかに通知しなくてはいけません。また、フリーランスが書面での契約内容確認を希望した場合には、遅滞なく提供する義務があります。これにより、トラブル時には契約内容を証拠として提示でき、双方の権利を守る仕組みとなっています。なお、この義務は特定業務委託事業者だけでなく、すべての業務委託を行う企業が対象です。従業員を雇用していない企業でも、契約書をしっかり整備し、フリーランスとの取引を適切に進めましょう。

社内ルールを整備・周知する

保護対象となるフリーランスと取引を行う企業には、法令を遵守するための社内ルールや体制の整備が求められます。社員全員がフリーランス法の内容を正しく理解し、発注や契約手続きの適切な方法を実践できるよう教育を実施しましょう。例えば、発注時には業務内容や報酬、支払期日などの条件を口頭ではなく書面や電子データで明確に示す仕組みを社内に構築する必要があります。同時に、法律違反が企業に与える影響や罰則についても周知することで、全員が責任を持ってルールを守る意識を高められるでしょう。

発注書や契約書をリーガルチェックする

企業は業務委託時に使用する発注書や契約書を法令に適合させる必要があります。現在使用している契約書類を見直し、フリーランス法で定められた内容が漏れなく反映されているかを確認しましょう。例えば、支払方法が現金以外の場合は具体的な方法を明記するなど、書類の内容を要件に合わせなくてはいけません。万が一、不備や漏れが見つかった場合は、すみやかに修正し、法的リスクを未然に防ぐ体制を整えることが大切です。

60日・30日以内に報酬を支払う

フリーランス法では、成果物の受領日を基準にして、60日以内に報酬を支払うことが義務付けられています。例えば、従来の「月末締め翌々月末払い」のスケジュールが、成果物の受領日から60日を超えると法律違反に該当します。そのため、支払いスケジュールを見直し、法定期限内でスムーズに支払えるように調整することが求められます。また、フリーランスへ再委託する場合には、別の規制が定められています。再委託であることや元委託者の必要な情報をフリーランスに明示したときは、元委託者の支払い予定日を起点として30日以内にフリーランスへ報酬を支払う必要があります。

働きやすい環境を整備する

企業はフリーランスの働きやすいよう、以下のように環境を整える必要があります。

育児介護等と業務の両立に対する配慮義務
ハラスメント対策に係る体制整備義務

フリーランスが育児や介護など家庭の事情を理由に調整を求めた場合、企業はその内容を聞き取り、可能な範囲で対応する義務があります。例えば、納期を延ばしたり、業務量を調整したりといった柔軟な対応が求められます。配慮が難しい場合には、理由を明確にし、文書やメールでその説明を行いましょう。また、ハラスメント防止対策として、企業は相談窓口の設置や社内研修を実施し、フリーランスに対するハラスメントが起きないような体制を構築することも大切です。なお、フリーランスがハラスメントを報告したことを理由に、報酬の減額や契約解除を行うことは違法です。フリーランス法を守るだけでなく、働きやすい環境作りを進めることが、企業の評価向上にもつながるでしょう。

契約解除を予告する

企業は、6か月以上の業務委託契約を解除する場合、契約終了の30日前までにフリーランスに通知することが義務づけられています。また、解除通知を受けたフリーランスがその理由を求めた場合、発注事業者は、速やかに理由を開示する必要があります。ただし、以下の例外的な状況では、予告なしに契約解除が認められています。

災害や不可抗力により、予告が実施できない場合
再委託先の契約解除により、直ちにフリーランスとの契約解除が必要な場合
短期間(30日以下)の契約である場合
フリーランス側の責任による契約解除(例:業務遂行に重大な問題が生じた場合)
基本契約に基づいて、個別契約が長期間締結されていない場合

予告義務は、フリーランスが安定して仕事を続けられるように保護する重要な規定です。急な契約解除は収入を断つリスクになるため、フリーランスがスムーズに次の仕事に移行できるよう支援する体制を整える必要があります。

フリーランス法を違反した場合の罰則

フリーランス法に違反すると、企業は罰則を受ける可能性があります。
まず、違反が疑われると、行政機関は以下の手順で対応します。

1. 助言
2. 指導
3. 報告
4. 立入検査
5. 企業公表
6. 命令
7. 罰金

罰金は50万円以下ですが、罰金以上に大きな影響を及ぼすのは、企業の評判の低下や、行政対応に必要な時間とコストです。さらに、フリーランス側から民事訴訟を起こされる可能性もあります。

まとめ

フリーランス法は直接税務に関わるものではありませんが、フリーランスと業務委託契約を結ぶ企業にとっては非常に重要な法律です。多様な働き方を支援し、フリーランスと企業がより安心して協力できる環境を整えるために制定されました。従来の下請法に似た側面もありますが、より広範囲にわたってフリーランスの権利を守る内容が盛り込まれています。企業に求められるのは、フリーランス法の適用範囲や義務内容をしっかりと理解し、適切な対応を取ることです。また、違反があれば罰則も科されるため、コンプライアンスを徹底する必要があります。しかし、企業にとってもフリーランスとの健全な関係を築き、ビジネスを発展させるチャンスです。前向きに捉え、適切に対応することで、企業とフリーランス双方にとって有益な結果を生めるでしょう。