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業務委託に源泉徴収は必要か|給与と外注費の違いや6つの判断基準

フリーランスや個人事業主に報酬を支払う際、社員とは異なる税務手続きが必要です。その際、報酬を「外注費」として処理するか、「給与」として扱うかを正確に区別することが大切です。外注費と給与の違いを理解していないと、源泉徴収の手続きや税務申告でトラブルを引き起こす原因にもなりかねません。そのため、業務委託契約を結ぶ際には、報酬がどちらに該当するのか把握し、源泉徴収の要否を正しく判断する必要があるでしょう。本記事は、業務委託における源泉徴収の基本知識から、「外注費」と「給与」の違い、判断基準となる6つのポイントをわかりやすく解説します。税務トラブルを未然に防ぐためにも、事前にしっかり確認しておきましょう。

目次

源泉徴収とは
フリーランスへ支払うお金は給与か外注費か
給与と外注費|税務上の違い
税務調査で外注費が問題視される理由とは
給与と外注費の区分を判断する6つの基準
まとめ

源泉徴収とは

源泉徴収とは、年間所得にかかる所得税を、事業者があらかじめ差し引いて税務署に納める制度です。サラリーマンは、毎月の給料から自動的に所得税や住民税が引かれるため、確定申告する手間が省けます。一方、フリーランスや個人事業主は通常、自身で確定申告を行い、所得税を納める必要があります。

フリーランスへの支払いで源泉徴収が必要な8つのケース

フリーランスへの報酬が必ずしも源泉徴収の対象になるわけではありません。しかし、所得税法第204条に基づき、以下の業務に対しては源泉徴収が義務付けられています。

原稿・デザイン・講演などへの報酬
税理士・弁護士など士業への報酬
診療報酬
スポーツ選手・モデルなどへの報酬
芸能人への報酬
ホステスへの報酬
スポーツ選手との契約金
広告宣伝のために支払われる賞金
馬主に支払われる賞金 など

業務委託契約を結ぶ際、報酬の金額や業務内容によっては、源泉徴収が必要になるため、支払金額や契約内容を正確に把握しておくことが重要です。

参考:

国税庁「報酬・料金等の源泉徴収事務」(外部リンク)

フリーランスへ支払うお金は給与か外注費か

フリーランスに支払う報酬が「給与」になるか「外注費」になるかは、契約形態や業務の実施方法などによって決まります。例えば、以下のように、企業の指揮監督の下で業務を行う場合、給与としてみなされます。

雇用契約がある
時間的拘束がある
業務遂行に必要な機材や場所が企業から提供されている など

一方、以下の条件を満たす場合は、外注費として扱われます。

業務委託もしくは請負契約がある
業務遂行において独立性がある
報酬が成果物や業務の完成に基づいて支払われる など

なお、民法上では業務委託や外注という言葉は存在しません。実際には、以下の契約形式として締結することで法的効力を発揮します。

請負契約
委任契約(または準委任契約)

しかし、分類するのが難しい場合は、しっかりと契約書を交わし、どちらの性質に近いかを明確にしておくことが重要です。契約内容や実態に即した処理を行うことで、税務上のリスクやトラブルを未然に防げるでしょう。

給与と外注費|税務上の違い

給与と外注の違いは、下表の通りです。

簡単に言うと、支払う側は「外注費」として扱った方が、給与として支払うよりも消費税分だけコストを抑えられます。しかし、税務調査で「外注費」として処理したものが「給与」と認定されると、追加で税金が発生したり、罰則を受けたりするリスクがあります。そのため、給与と外注費の違いをしっかり理解し、適切に対応することが重要です。

給与とは

給与とは、雇用契約を結んだ従業員に対して労働の対価として支払う金銭を指します。例えば、事務職の社員が定められた勤務時間内に業務を行い、労働に対して月ごとに一定の金額が支払われる場合、給与とみなされます。なお、給与には消費税がかからないため、仕入税額控除の対象にはなりません。また、社会保険の加入義務が発生します。社会保険に加入している従業員には、企業は給与から本人負担分を差し引き、その上で企業負担分を上乗せして保険料を納付する必要があります。

外注費とは

外注費とは、業務の一部を外部に委託した際に支払う対価です。業務委託契約や請負契約を結んでいる場合に該当します。企業とフリーランスの間に雇用関係はなく、依頼した業務の成果物や結果だけが求められます。外注費には消費税が含まれており、インボイス登録事業者の場合は仕入税額控除を受けることが可能です。

参考:

国税庁「報酬・料金等の源泉徴収事務」(外部リンク)

税務調査で外注費が問題視される理由とは

税務調査で外注費が指摘されやすい理由は、以下の3つです。

コスト削減につながるから
消費税の仕入税額控除の恩恵を受けられるから
架空の経費計上が行われやすいから

それぞれを詳しく見ていきましょう。

コスト削減につながるから

外注費が給与よりも低コストで処理されることから、意図的に外注費として計上しているのではないかと疑われやすくなります。一般的に、従業員を雇うと以下のコストが発生します。

社会保険料
給与
賞与
福利厚生費 など

外注費であれば、労働時間の管理や残業規制などの労働法規が適用されません。そのため、企業は従業員を雇うよりもコストを抑えられ、税務上も有利になる可能性があります。

消費税の仕入税額控除の恩恵を受けられるから

インボイス登録事業者に支払う外注費は、消費税の仕入税額控除の対象となります。つまり、支払った消費税を自社が納める消費税から差し引けるため、実質的に税金負担が軽減されるのです。例えば、IT企業がフリーランスのデザイナーにWebサイト制作を依頼し、支払った報酬が外注費として計上されるとします。このとき、デザイナーがインボイス登録事業者ならば、その報酬に含まれる消費税を企業は仕入れ税額控除として取り扱い、納めるべき消費税額を減らせます。しかし、そのデザイナーが従業員として雇用されている場合、給与に消費税はかからないため、同じ金額でも税務上のメリットは少なくなるでしょう。

架空の経費計上が行われやすいから

外注費は、実際に行われていない仕事に対しても経費として計上されるケースも少なくありません。また、本来給与として支払うべき費用を外注費として計上するケースも見受けられます。従業員として働くべき人物に対して外注契約を結び、外注費として処理すると、税務調査で指摘を受けやすくなります。税務調査では外注費の適正性が厳しくチェックされるため、企業は必要な書類を整備し、実際に行った業務との関連性を明確に示すことが重要です。

給与と外注費の区分を判断する6つの基準

給与と外注費の区分を判断する基準は、以下の6つです。

時間的拘束の有無
指揮命令の有無
業務代替の可否
必要な道具や材料提供有無
成果物滅失時の請求可否
請求書発行の有無

基準を考慮し、適切に区分することが求められます。

時間的拘束の有無

時間的拘束の有無は、給与と外注費を区別する重要な基準の一つです。以下の条件が該当する場合は「給与」と見なされるリスクが高まります。

勤務時間の指定がある
タイムカードなどで勤務時間を記録する
報酬が時間単位で計算される など

一方、「外注費」は、業務に費やした時間ではなく、成果に対する対価であることが基本です。報酬の支払条件が成果物や業務完了に基づいている場合、税務調査においても外注費として認められる可能性が高まります。作業時間の指定や時間単位での報酬計算が行われている場合、支払いは「給与」と判断される可能性が高まります。

指揮監督の有無

発注元が作業の進め方を具体的に指示し、管理している場合は「給与」と判断される可能性があります。給与契約の従業員は、会社の規則や方針に従い、上司の指示のもと業務を行います。一方、外注業務では、成果物が求められるだけで、作業の具体的な手順や進め方は作業者自身の判断に委ねられます。発注元からの指示が必要最低限であり、業務の独立性が保たれている場合、外注費として認められる可能性が高くなるでしょう。

業務代替の可否

外注業務は、成果物が納品されれば、業務を誰が行ったかは問われません。つまり、業務成果が重要であって、担当する人に特定の制約がない場合に外注費と認められやすくなります。これは、業務自体が「仕事の成果」に基づいて評価され、個人に依存しないためです。一方、給与は、業務を担当するのは従業員本人であることが前提です。他者による代行は基本的に認められません。

必要な道具や材料提供の有無

外注費として扱われるには、作業者自身が業務に必要な道具や材料を負担することが一般的です。例えば、建設業の現場では、施工業者が自ら必要な機材や資材を用意し、業務を行います。一方、発注元が道具や材料を提供したり、業務に必要な備品を支給したりする場合は、雇用関係と見なされ、給与として扱われる可能性が高くなります。例えば、食事手当や通勤手当の支給、作業用の制服や道具の提供などがある場合、外注ではなく従業員として認識されます。

成果物滅失時の請求可否

給与の場合、業務成果が得られなくても、作業にかかった時間に対して報酬が支払われるのが基本です。一方、外注の場合、報酬は成果物に対する対価であるため、納品できなかった場合は原則として報酬が支払われません。どんな状況でも、業務の結果が出なかった場合に報酬が支払われないのであれば、外注費として扱われる可能性が高いしょう。

請求書発行の有無

外注費として処理されるには、外注先からの請求書が必要です。なぜなら、請求書がないと、支払いが雇用契約に基づいて行われていると見なされやすいためです。請求書がなく、報酬が時間単位で支払われていると、給与として扱われる可能性が高くなります。

なお、名古屋総合税理士法人では、経理代行はもちろん、税務調査対策までトータルでサポートしております。外注費の処理に自信がない方や、税務署からの指摘を避けるために正確な申告をしたい方は、お気軽にご相談ください。

まとめ

働き方の多様化に伴い、フリーランスへの業務委託が増える一方で、企業と個人の間でのトラブルも増加しています。特に、給与と外注費の判定は消費税や源泉所得税に大きな影響を与えるため、税務署の指摘を受けやすい重要なポイントです。万が一、外注費が否認されると、修正申告が必要となり、さらに追徴課税が発生するなど、企業にとって大きな負担となります。契約内容が適切であることはもちろん、実際の業務内容が外注契約に該当するかどうかを慎重に確認することが大切です。判断に迷ったときは、安易に外注費として処理するのではなく、税理士に相談することをおすすめします。