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【最新版】年収の壁とは|中小企業に与える影響と対策を解説

近年、労働環境の多様化に伴い、頻繁に耳にするようになった「年収の壁」問題。しかし、この問題は労働者だけでなく、材の確保や定着に悩む企業にとっても深刻な影響を与えています。本記事では、「年収の壁」の概要をはじめ、引き起こす影響や政府が実施する支援策についてわかりやすく解説します。企業が「年収の壁」を乗り越えるために実践すべき具体的な施策もあわせて紹介するので、ぜひ参考にしてください。

目次

年収の壁とは
税制上の壁への影響
社会保険上の壁への影響
企業独自手当による壁への影響
年収の壁はいつからなくなるのか
愛知県の中小企業が年収の壁を克服する3つの方法
まとめ

年収の壁とは

年収の壁とは、一定の年収を超えることで、税金や社会保険料の負担が急増し、実質的な手取り収入が減少するボーダーラインを指します。この問題は、企業の人事戦略や経営に影響を与えるため、慎重な対応が求められます。

そんな年収の壁は、以下の3つのカテゴリーに分かれます。

税制上の壁
社会保険上の壁
企業独自手当による壁

それぞれの壁が与える影響を理解することは、企業が従業員の働き方や経営戦略を検討する上で重要です。次項で、それぞれの具体的な影響を紹介します。

年収の壁一覧表

下表は、年収が増えることで発生する税金や社会保険の負担増加をまとめたものです。

表を活用することで、従業員ごとの収入設計や働き方の最適化に向けた具体的なアプローチを検討できるでしょう。

税制上の壁への影響

税制上の壁は、所得税や住民税が発生するボーダーラインを指します。税負担が増えるため、従業員が以下の年収を超えたくないと考える要因となります。

100万円の壁:住民税の課税点
103万円の壁:所得税の課税点
150万円の壁:配偶者特別控除の減少基準
201万円の壁:配偶者控除の適用外

それぞれを詳しく見ていきましょう。

100万円の壁

年収100万円を超えると、住民税がかかります。住民税は、住んでいる地域の都道府県や市区町村に支払う税金です。

なお、愛知県では、以下の税率が適用されます。

所得割:9.7%(市民税7.7%+県民税2%)
均等割:4,300円(市民税2,800円+県民税1,500円)
森林環境税:年間1,000円(国税)

103万円の壁

103万円の壁とは、所得税が発生するボーダーラインです。この基準が、給与所得控除(55万円)と基礎控除(48万円)の合計金額を超えると課税対象となるためです。なお、所得税は、課税される所得額に応じて増える累進税率を採用しています。そのため、収入が高くなるほど負担が大きくなる「壁」に直面することになります。

150万円の壁

「150万円の壁」とは、配偶者特別控除が減少し始める年収のボーダーラインを指します。配偶者特別控除とは、配偶者の年収が一定の範囲内であれば、納税者が受ける税制優遇の一つです。納税者の年収が900万円以下であれば、配偶者特別控除として最大38万円(所得税)および33万円(住民税)が控除され、家族全体の税負担を軽減できます。

201万6,000円の壁

「201万6,000円の壁」とは、配偶者特別控除が一切適用されなくなるボーダーラインを指します。配偶者控除がなくなることにより、夫の課税所得が増え、最終的に支払うべき税金が高くなります。

社会保険上の壁への影響

社会保険上の壁は、社会保険に加入しなければならないボーダーラインを指します。特に、扶養内で働きたいと考える人にとっては重要な要素です。この壁を意識して年収を抑える働き控えが発生するため、労働意欲の低下や企業の人材不足が懸念されています。

社会保険上の壁は、以下の2つです。

106万円の壁:社会保険への加入
130万円の壁:扶養から外れる

それぞれを詳しく見ていきましょう。

106万円の壁

年収106万円を超えると、社会保険への加入が必要です。この基準は、以下の条件の一つである「収入制限」と関係しています。

勤務先の従業員数が51人以上
週の所定労働時間が20時間以上、30時間未満
月額賃金が8万8,000円以上
勤務期間が2ヶ月以上
学生でない

なお、月額8万8,000円には通勤手当や残業代は含まれません。また、所定労働時間とは、実際の勤務時間ではなく、就業規則や雇用契約書に記載された勤務時間を基に判断されます。

130万円の壁

「130万円の壁」とは、家族の扶養に入れるかどうかを決める年収の目安となるラインです。ラインを超えると扶養から外れ、自分で国民健康保険や社会保険に加入する必要が生じます。なお、扶養に入れる条件は、健康保険組合や勤務先によって異なります。

企業独自手当による壁への影響

企業独自手当による「壁」とは、配偶者の年収が、企業が設定する収入制限を超えた場合に手当が支給されなくなる仕組みを指します。例えば、月額1万5,000円の配偶者手当が支給されている場合、配偶者の年収が制限額を1円でも超えると手当が全額カットされる可能性があります。その結果、増えた収入以上に家計全体の手取り額が減る「逆転現象」が生じます。

企業ごとに基準が異なりますが、以下のラインが一つの指標とされています。

103万円以下:税制上の配偶者控除
130万円以下:社会保険上の扶養基準
150万円以下:配偶者特別控除の減少基準

収入制限があるため、配偶者は自らの年収を抑える「就業調整」を選ぶケースも少なくありません。労働力不足の一因となるため、企業にとっても無視できない課題となっています。

年収の壁はいつからなくなるのか

以下の年収の壁は、見直しが予定されています。

103万円の壁
106万円の壁
企業独自手当の壁

それぞれを詳しく見ていきましょう。

令和7年「103万円の壁」123万円に引き上げの方針へ

令和7年度税制改正大綱により、パートやアルバイトなどで注目される「103万円の壁」が123万円に引き上げられる方針が決まりました。

現在の「103万円の壁」とは、給与所得控除(65万円)と基礎控除(38万円)の合計額であり、これを超えると所得税がかかるラインです。改正後は、控除額がそれぞれ10万円増加し、123万円までの収入が非課税となります。

新制度の適用時期は、以下の通りです。

所得税:令和7年分から適用
住民税:令和8年分から適用
源泉徴収:令和8年1月以降の支払い分から反映

なお、令和6年、国民民主党は最低賃金や物価上昇を反映し、103万円から178万円までの引き上げを提案しました。しかし、税収の減少や社会保険料の負担増加が懸念され、引き上げのペースについては各党の意見が対立。そのため、各党の議論の末、「123万円」という段階的な引き上げが採用されました。ただ、123万円への改正は第一歩とされ、今後もさらなる引き上げについて協議が続けられる見込みです。企業側にとっては給与計算や制度変更対応が必要となる重要な改正です。従業員の働き方を尊重しつつ、制度変更に対応する柔軟な管理体制を構築することがポイントとなるでしょう。

令和8年「106万円の壁」撤廃予定

令和8年10月から、年収106万円の壁が撤廃される予定です。現行の制度では、従業員51人以上の企業で、週20時間以上働き、月額8万8,000円以上の賃金を得る労働者が社会保険に加入する対象となっています。なお、令和8年10月には年収要件、令和9年10月には企業規模の制限も撤廃され、すべての事業者で同じ要件が適用される予定です。

しかし、制度改正は中小企業にとって大きな変化をもたらします。新たに加入する労働者の保険料は労使折半で負担しますが、年収156万円未満の労働者に関しては企業側の負担割合が増える仕組みが導入される予定です。負担増が避けられない企業に対しては、支援策が検討されています。最新の情報を注視し、活用できる制度を積極的に取り入れることが、コスト増を最小限に抑えるための鍵となるでしょう。

企業独自手当の壁 減少傾向

近年、企業の配偶者手当の見直しが進んでいます。特に大企業では、配偶者手当の廃止が進んでおり、令和5年には支給する企業が56.2%にとどまり、平成31年の81.2%から大きく減少しました。さらに、令和6年7月には国家公務員が配偶者手当を廃止し、削減分を子ども手当の増額に充てることが発表されました。国家公務員の配偶者手当は、令和7年から令和8年にかけて段階的に廃止される予定です。民間企業でも同様の動きが広がり、令和3年には大手自動車メーカーが月額1万9500円の配偶者手当を廃止し、その代わりに子ども手当を月額2万円に増額するという動きがありました。

配偶者手当を見直すことで、従業員の年収制限を越える働き方が促進され、企業の人材確保にもつながると期待されています。

愛知県の中小企業が年収の壁を克服する3つの方法

愛知県の中小企業が年収の壁に悩まないためには、以下の3つの対策が有効です。

福利厚生を充実させる
年収の壁・支援強化パッケージを活用する
専門家に相談する

それぞれを詳しく見ていきましょう。

福利厚生を充実させる

充実した福利厚生は、企業の競争力を高め、従業員の満足度を向上させる重要な要素です。特に、従業員の生活に密接に関連する福利厚生は、企業の魅力を引き出すアピールポイントとなります。新たな人材の確保に加えて、既存の従業員の定着率向上にもつながるでしょう。また、福利厚生にかかる費用は経費として計上できるため、企業側は税負担を軽減できます。福利厚生を活用することで、年収の壁に影響されることなく、企業と従業員双方にとって有益な「第3の賃上げ」として機能します。

年収の壁・支援強化パッケージを活用する

政府は、令和5年10月より短時間労働者の社会保険適用を進めるため、「年収の壁・支援強化パッケージ」を導入しました。なかでも、キャリアアップ助成金の「社会保険適用時処遇改善コース」は、企業が従業員を社会保険に加入させる際の負担を軽減し、働きやすい環境を提供します。助成金を活用することで、企業は1人あたり最大50万円の助成を受けられ、従業員の手取り収入減少を防げます。また、収入が一時的に130万円を超えても、必要な証明書を提出すれば配偶者控除が適用され、家計の負担軽減が可能です。支援策を活用することで、企業は従業員の社会保険加入を促進しつつ、経済的な負担を軽減でき、働きやすい環境を整えられます。

専門家に相談する

年収の壁に直面したとき、税理士や社会保険労務士などの専門家に相談することで、適切な対策を講じることが可能です。専門家は、税金や社会保険に関する深い知識を活かし、企業の負担を軽減しながら経営を安定させるサポートをしてくれるでしょう。

税理士が提供できるサポートは、以下の通りです。

税務アドバイス
資金調達
節税提案
経営計画策定 など

サポートを通じて、税理士は企業が直面する課題に応じた実践的な解決策を提案します。例えば、従業員に手当を増やす場合、税負担が増えることで資金繰りが悪化するリスクがあります。こうした課題に対し、税理士は助成金の活用や融資の手続き支援を行います。これにより、追加の税負担を抑えながら安定した経営を維持できるでしょう。

なお、名古屋総合税理士法人では、企業が抱える課題に寄り添い、持続可能な成長を目指した具体的な解決策を提供しています。年収の壁が企業経営に与える影響を最小限に抑えたい方は、お気軽にご相談ください。
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まとめ

本記事では、注目される「年収の壁」の概要、影響、そして企業が取るべき対応策について解説しました。年収の壁は、労働者の働き方や企業経営に大きな影響を及ぼし、特に中小企業の人材不足を深刻化させる社会的な課題となっています。問題に対応するため、政府は「年収の壁・支援強化パッケージ」を導入し、企業の負担軽減と働きやすい環境づくりをサポートしています。政府の支援策の活用、また、専門家の支援を活用することで、働きやすい環境を整え、多様な人材の活躍を促し、持続可能な成長につなげることができるでしょう。

※本記事は2025年1月7日時点の情報を元に掲載しております。