【2025年】年末調整の変更点 |実務対応のポイントをわかりやすく解説
2025年の年末調整では、税制改正の影響を受け、基礎控除や給与所得控除の見直しに加え、新たに特定親族特別控除が創設されるなど、制度や申告書の様式が大きく変わります。昨年、定額減税への対応に追われた経験がある担当者の中には、今年の手続きに不安を覚えている方も多いのではないでしょうか。
特に今回は、申告書の様式変更や控除判定の基準が複雑化しており、従来どおりの対応では誤りや差戻しが発生しやすいため、注意が必要です。
本記事では、2025年の年末調整で押さえておきたい主要な変更点と、実務担当者が事前に準備しておくべき対応策をわかりやすく解説します。実務上の注意点も紹介するので、ぜひ参考にしてください。
目次
・2025年(令和7年)年末調整における4つの変更点
・2022年から2025年までの年末調整改正の流れ
・年末調整の変更は実務にどう影響する?担当者向けチェックリスト
・まとめ
2025年(令和7年)年末調整における4つの変更点
2025年の年末調整における変更点は、以下の4つです。
● 基礎控除の引き上げ
● 給与所得控除の引き上げ
● 特定親族特別控除の新設
● 扶養親族などの所得要件緩和
それぞれを詳しく見ていきましょう。
出典:国税庁|令和7年分年末調整のしかた(外部リンク)年末調整の変更点①基礎控除の引き上げ

(注1)改正後の所得税法第86条の規定による基礎控除額58万円に、改正後の租税特別措置法第41条の16の2の規定による加算額を加算した額となります。
(注2)58万円にそれぞれ37万円、30万円、10万円、5万円を加算した金額となります。なお、この加算は、居住者についてのみ適用があります。
(注3)特定支出控除や所得金額調整控除の適用がある場合には、表の金額とは異なります。
(注4)合計所得金額2,350万円超の場合の基礎控除額に改正はありません。
今回の変更で、最も注目すべきは「基礎控除額の引き上げ」です。合計所得金額が655万円以下の従業員は、基礎控除58万円に加え、所得に応じた上乗せ控除(5万円〜37万円)が適用されます。
ただし、上乗せ控除は、すべての人に恒久的に適用されるわけではありません。合計所得金額132万円以下の人は引き続き適用されますが、132万円超336万円以下の人については、2年間のみの暫定的措置となります。そのため、2027年以降は、控除額が一律58万円に戻る見込みです。
実務上は、変更後の控除額をもとに年末調整を行い、源泉徴収時との差額を精算する必要があります。また、2026年以降も源泉徴収税額表に新しい基礎控除額を反映させる必要があるため、担当者は正確な税額計算体制を事前に整えておくことが大切です。
年末調整の変更点②給与所得控除の引き上げ

2025年からは、給与収入が190万円以下の人を対象に、給与所得控除が一律65万円に引き上げられます。控除の一律化により、計算方法がシンプルになるうえ、低所得層の税負担が軽くなる点が大きなメリットです。
また、給与所得控除の改正に伴い、「控除後給与額一覧表(外部リンク)」も新しい控除額に基づいて見直されています。2025年の年末調整では、新一覧表を用いて所得税を計算し、源泉徴収済みの税額との差額を精算する必要があります。
年末調整の変更点③特定親族特別控除の新設

2025年からは、新たに「特定親族特別控除」が導入されます。19歳以上23歳未満の大学生など、年収が比較的高くなりやすい特定の親族を扶養する場合に、新たに設けられた控除が適用されます。
例えば、大学生の子がアルバイト収入で年120万円以上を得ている場合、これまでは扶養控除の適用外となる基準を超えてしまい、世帯全体の税負担が増えるケースが一般的でした。ところが、新制度では一定の所得範囲内であれば控除が受けられるため、税負担が急に重くなることはありません。
学生が「年収の壁」を気にして勤務時間を制限する必要がなくなることで、アルバイトの就業機会が拡大し、企業側の人手不足緩和にもつながると期待されています。
ただし、以下のようなケースは適用対象外です。
✓ 複数の居住者が同じ親族を特定親族として申告した場合
✓ 特定親族が他の居住者の配偶者特別控除の対象となる場合
✓ 親族同士で互いに控除を適用する場合
✓ 配偶者、青色申告事業専従者として給与を受けている人
✓ 白色事業専従者
また、特定親族特別控除を適用するには申告が必要です。企業は制度の内容や対象要件を説明し、該当する従業員には「特定親族特別控除申告書」の提出を促しましょう。
年末調整の変更点④扶養親族の所得要件緩和

2025年の年末調整では、扶養控除の適用条件が見直され、これまで対象外だった家族にも控除が認められるようになります。なお、公的年金を受給している従業員については、新たに扶養控除を受ける場合、原則として確定申告での対応が必要です。
2022年から2025年までの年末調整改正の流れ
下表は、年末調整における主な変更点を年度別にまとめたものです。

年末調整は毎年繰り返し行うルーチン業務の一つですが、税制改正の内容が毎年加わるため、昨年と同じ方法で処理すると思わぬミスにつながる危険があります。例えば、担当者が気付かず従来通りの処理をすると、控除の適用漏れや過大控除といった問題が生じかねません。こうしたミスは従業員の信頼にも直結するため、常に最新の税制改正情報をチェックし、正確な手続きを進めることが大切です。
しかし、改正内容を自社だけで把握しきるのは容易ではなく、実務に落とし込むには専門的な知識が求められます。税制の動向を踏まえた適切な対応を行うには、税務のプロである税理士に相談することをおすすめします。
名古屋総合税理士法人では、最新の税制情報をはじめ、企業経営に役立つ各種セミナーを定期的に開催しています。実務に活かせる税務知識を学びたい方は、お気軽にご参加ください。
年末調整の変更は実務にどう影響する?担当者向けチェックリスト
2025年の年末調整では、申告書の様式変更に加えて、各種控除制度の見直しが一斉に行われます。誤った処理は従業員の税額に直結するため、企業としても慎重な対応が欠かせません。担当者は早めに変更点を把握し、自社の手続きフローやチェック体制を整備しておくことが重要です。
変更点を早めに確認しておけば、年末の繁忙期でもスムーズに対応でき、従業員の申告ミスや再提出といったトラブルを防げるでしょう。
年末調整の書き方について振り返りたい方は、以下の記事もあわせてご確認ください。
【関連記事】【2025年最新盤】年末調整の書き方と記入例|全申告書を徹底解説申告書の様式変更を確認する
2025年の年末調整では、以下のように申告書の統合や記載欄の変更があります。
✓ 「基礎控除・配偶者控除・所得金額調整控除申告書」に「特定親族特別控除申告書」が追加され、1枚に統合
✓ 扶養控除等(異動)申告書の記載欄名称が変更
✓ 「特定親族」に該当する場合のチェック欄が新設
また、2026年分からは、扶養控除申告書に記載された「源泉控除対象親族」の情報をもとに、控除額が算定されます。
給与計算ソフトや年末調整システムが新様式に対応しているか確認する
年末調整における申告書様式の変更は、従業員の記入内容だけでなく、給与計算ソフトや人事システムの入力項目にも直結します。今回の変更点では、「源泉控除対象親族」への名称変更や「特定親族」のチェック欄追加といった新しい区分があり、入力項目が更新されていなければ正しく処理できません。
そのため、システム提供元から案内される更新情報を確認するとともに、実際にテスト入力を行い、正しく反映されるかを事前に検証しておくことが重要です。対応が間に合わない場合には、暫定的に手作業で補正する、もしくは最新バージョンへの切り替えを早急に検討する必要があります。
従業員に変更点を周知する
2025年の年末調整をスムーズに進めるには、従業員への周知が欠かせません。今年度は、申告書の様式や控除の判定基準が変わるため、理解不足によって記入漏れや誤りが生じると、担当者の確認作業が大幅に増える可能性があります。
従業員から質問が多い項目は、以下の通りです。
✓ 基礎控除額の計算方法
✓ 特定親族の判定
✓ 新様式の記入方法
✓ 所得要件の変更
✓ 合計所得金額の算出方法 など
特に「特定親族特別控除申告書」は、基礎控除申告書や配偶者控除等申告書などと兼用されているため、従業員が混乱しやすい書類です。事前にサンプル記入例を示す、説明会を行う、Q&Aを配布するといったサポートを用意することで、誤記や提出遅れを防げるでしょう。
源泉徴収簿の様式変更に注意する
2025年分の「給与所得に対する源泉徴収簿」では、年末調整欄に「特定親族特別控除」の計算欄が設けられていません。そのため、該当者がいる場合は、余白欄を利用するなどの対応が必要です。国税庁が公開している以下の記載例を参考に、社内で情報共有しておくと良いでしょう。

また、2026年分以降の源泉徴収事務では、これまで「源泉控除対象配偶者」と「控除対象扶養親族」を基準にしていたものが、「源泉控除対象配偶者」と新設された「源泉控除対象親族」によって算定されるようになります。誤ると扶養親族数の誤計上につながるため、注意が必要です。
社内で回収・チェック体制を整備する
年末調整を滞りなく進めるには、従業員から提出される申告書を確実に回収し、記載内容を確認するための社内体制を整えておくことが重要です。特に2025年は様式の変更や控除内容の見直しがあるため、従来以上にチェック体制の強化が求められます。担当者は以下の点を意識して準備を進めましょう。
✓ 提出期限を明確に伝える
✓ 提出状況を一覧管理する
✓ 記入内容のチェック項目を用意する
✓ 不備があった場合の修正フローを決める
なお、下図は、国税庁が公開している2025年の年末調整業務におけるチェックリストです。

単に書類を集めるだけではなく「チェックの仕組み」を社内で整えておくことで、誤記や漏れによる処理遅延を防止できます。
なお、名古屋総合税理士法人では、最新の税制に沿った正確な処理で、経営者の皆さまが安心して本業に集中できる環境づくりをサポートしています。年末調整をはじめ、給与計算や源泉徴収事務などの対応に不安がある方は、お気軽にご相談ください。
出典:国税庁|令和7年分年末調整チェックリスト(外部リンク)まとめ
2025年の年末調整は、改正や様式変更が重なり、実務担当者にとって確認すべき項目が例年より多くなっています。そのため、従来通りの処理では、控除額の誤適用や計算ミスが起こりやすく、差戻しや確認作業の負担が増える恐れがあります。こうした変化に対応するためには、改正内容を正しく理解したうえで、事前に準備やチェック体制を整えておくことが重要です。必要に応じて税理士や専門家を活用することで、正確かつ効率的に年末調整を進め、業務全体のスムーズな運営につなげられるでしょう。